- 約束
宗二郎は竹刀の切先を見つめながらその向こうにある隣の屋敷の塀の奥を眺めてみた
庭先には赤い椿の花があざやかに咲いている
宗二郎の目はその椿の花一点に注がれているしかしその花を見ながら頭の中では違う事を
考えていた
宗二郎は加納家の次男坊で三つ上の。喜一郎はすでに家督を継いでいる
父は水戸藩の勘定方の勤めをしていたがすでに二年前に隠居していた
兄は父の期待通りに己の道を進んでいくまたそれが父の誇りでもあり自慢だった
しかしそれに対し宗二郎は全く身を立てるという事に興味が無いのか未だに養子先が決まらず毎日道場と藩の学問所を行くだけの生活を繰り返していた
- 約束2
宗二郎は全く他人事のような顔をしながら返事をした
自分が切り出した話題と違う答えが返ってきた事が宗二郎にはわずらわしかった
宗二郎はそれ以上何も答えようとはしない
しかし宗二郎のその返事を聞いた瞬間隼人の眉がわずかに震えた
その時初めて隼人は宗二郎に目を向けた
- 約束7
宗二郎は振りかざしていた竹刀を下ろしゆっくりと振り返った
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