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種田山頭火と尾崎放哉 「あすは雨らしい」「一人の雨」
山頭火 あすは雨らしい風が麦の穂の列 放哉 あすは雨らしい青葉の中の堂を閉める 山頭火 しんじつ一人として雨を観るひとり 放哉 雨の日は御灯ともし一人居る
種田山頭火と尾崎放哉 「湯に一人」「火を焚く一人」
山頭火 一人のさみしさが温泉にひたりて秋の夜 放哉 臍に湯をかけて一人夜中の温泉である 山頭火 よう燃える火で私ひとりで 放哉 青空焚きあぐる焚火大きくて一人
種田山頭火と尾崎放哉 「夕日の山」「夕陽の墓地」
山頭火 枯草山に夕日がいつぱい 放哉 山は海の夕陽をうけてかくすところ無し 山頭火 墓に夕日があたゝかな草のもみづりて 放哉 山の夕陽の墓地の空海へかたぶく
種田山頭火と尾崎放哉 「朝一番」「枯山に朝日」
山頭火 湯がわいてくる朝日をいれる 放哉 手拭かたくしぼつた朝陽 山頭火 朝日まぶしう枯山たかく 放哉 枯草。辷る松原の朝陽
種田山頭火と尾崎放哉 「窓いつぱいの春」「窓の雑草」
山頭火 窓あけて窓いつぱいの春 放哉 窓に肱を置く大地の春 山頭火 雑草が咲いて実つて窓の春は逝く 放哉 窓に迫り来る雑草の勢を見る
種田山頭火と尾崎放哉 「朝日あまねし」「朝日尊し」
山頭火 雪もうらゝかな朝日影さす 放哉 氷とけたり朝日あまねし 山頭火 仏間いつぱいに朝日を入れてかしこまりました 放哉 海の旭日ををがんで二階から下りる
種田山頭火と尾崎放哉 「旅の夜」「旅の夫婦」
山頭火 旅の或る夜のおまつりの客の一人として 放哉 踊り子障子にうつる夜の町の旅人とし 山頭火 旅の夫婦が仲よく今日の話 放哉 旅人夫婦で相談してゐる
種田山頭火と尾崎放哉 「留守らしい」「留守番」
山頭火お留守らしい青木の実の二つ三つ 放哉 青梅落として居る留守らしい 山頭火留守番、陽あたりがよい 放哉 留守番に来て居る夕陽の障子
種田山頭火と尾崎放哉 「さかな焼く」「大根漬ける」
山頭火そこらあるけば大根煮えるにほひ鰯焼くにほひ 放哉 さかな焼く晩の煙りの家が押し合ひ 山頭火大根漬けてから長い手紙を書く 放哉 たくさんの児等を叱つて大根漬けて居る
種田山頭火と尾崎放哉 「落葉掃く」「掃く」
山頭火それでよろしい落葉を掃く 放哉 落葉掃きよせていつぷく 山頭火掃き出して坐る 放哉 日暮れの畳を掃く
種田山頭火と尾崎放哉 「峠茶屋」「茶店」
山頭火ながい豆も峠茶屋のかなかな 放哉 只のやうな松。買ひけり峠茶屋 山頭火ちよいと茶店があつて空瓶に活けた菊 放哉 炬燵ありと障子に書きし茶。哉
種田山頭火と尾崎放哉 「ひとすぢに水」「ひとすじの光」
山頭火ひとすぢに水ながれてゐる 放哉 冬川雪にあけたるひとすじ 山頭火ひとすじのひかり雲をつらぬき芒そよがず 放哉 大戸あくればひとすぢの朝日つばくら
種田山頭火と尾崎放哉 「金借りて」「餅もらう」
山頭火入日をまともに金借りて戻る河風 放哉 闇空金借りて戻る 山頭火どしやぶり、正月の餅もらうてもどる 放哉 もらつた餅を数えて居る元日
種田山頭火と尾崎放哉 「豆むく」「焼芋」
山頭火向きあつておしやべりの豆をむぐ 放哉 人を そしる心をすて豆の皮むく 山頭火焼芋つゝんで下さつた号外で 放哉 ふところの焼芋のあたたかさである
種田山頭火と尾崎放哉 「月の障子」「煤けた障子」
山頭火月の障子のあかるさで寝る 放哉 あすの米洗いあげて居る月の障子となる 山 頭火煤け障子は秋日の波ですつかり洗つた 放哉 すゝけた障子にわがかげうつる夜となる
種田山頭火と尾崎放哉 「女ばかり」「女連れ」
山頭火橋の日かげへ女ばかりのボートで 放哉 晩の小ざかな売りに来る女ばかり 山頭火あの山こえて女づれ筍うりにきた 放哉女連れに道をきかれた
種田山頭火と尾崎放哉 「寒い顔」「疲れた顔」
山頭火涙がこぼれさうな寒い顔で答へる 放哉 寒い顔して会釈し合つた 山頭火つかれた顔を汐風にならべて曲馬団の女ら 放哉 盆踊りにつかれた顔で芋掘つてゐる
種田山頭火と尾崎放哉 「郵便屋」「豆腐屋」
山頭火障子の朝日影もう郵便屋さんがくるころ 放哉 今朝の障子を郵便やがあけた 山頭火朝がひろがる豆腐屋のラツパがあちらでもこちらでも 放哉 豆腐屋朝をならし来るよい男だ
種田山頭火と尾崎放哉 「月見て寝る」「淋しい月」
山頭火 ひろびろひとり寝る月のひかりに 放哉 こんなよい月を一人で見て寝る 山頭火 ウソをいつたがさびしい月のでてゐる 放哉 島人みんな寝てしまひ淋しい月だ
種田山頭火と尾崎放哉 「月見て寝る」「覚めて青い空」
山頭火寝床まで月を入れ寝るとする 放哉 こんなよい月を一人で見て寝る 山頭火ふつと覚めて青い青い空 放哉 澄み切つた空で眼が覚め出す
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