- 種田山頭火「秋となる」「秋になる」「秋に入る」
秋となつた雑草にすわる
秋となる鋭い蚊だな
芋粥のあつさうまさも秋となつた
お茶のうまさも歯にしみとほる秋となり
くみあげる水がふかい秋となつてきた
さかのぼる水底の秋となつてゐる
波のかゞやかさも秋となつた
へたなピアノも秋となつた雲の色で
水の味も身にしむ秋となり
別れて遠い秋となつた
木の葉ひかる雲が秋になりきつた
砂ほこりもいつさいがつさい秋になつた
よぼよぼ生き伸びて秋になる草のいろ
たれも知らない悩みがたえない秋に入る
- 種田山頭火「秋深う」「秋深み」
秋ふかうなる井戸水涸れてしまつた
秋ふかうなる蚊を打つ蠅を打つ
秋ふかう水音がきこえてくる
家を持たない秋ふかうなつた
質のいれかへも秋ふかうなつた
すすき四五本の秋ふかうなる
空が風が秋ふかうなる変電所の直角形
私と生れて秋ふかうなる私
秋ふかみくるまはりの花の赤く白く
秋ふかみゆく笈もぴつたり身について
ぬかづけば秋ふかみ木の香ただよふ
また一人となり秋ふかむみち
- 種田山頭火 「叩かれ」
秋の蚊のないてきてはたゝかれる
雨に茶の木のたゝかれてにぶい芽
けふは霰にたたかれて
とまればたたかれる蠅のとびまはり
はだかではだかの子にたたかれてゐる
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